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心理学ワールド 81号 小特集 概説 共生に向けた合理的配慮とは 柏崎秀子 | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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21 一人ひとりに個性があり,個性が尊重される社会が望まれます。障害者に対する差別禁止と合理的 配慮の義務が規定された障害者差別解消法の施行から丸 2 年,心理学に携わる者として,改めて, 身近な学校や企業等での合理的配慮の実際を考えましょう。 (柏崎秀子)

合理的配慮ってどんなこと?

 社会や学校における各構成員に 援助を行う時,「平等(equality)」 と「公平(equity)」からの議論 がある。学校場面を考えると,平 等は状況を鑑みず全員に対して同 じ処遇(時間,声かけ,指導など) を施し,その結果はできた者とで きない者が出現する。しかし,公 平は各々の状況に応じて処遇を変 え,全員ができるように施すもの である。そもそも,平等は全員が 同じように授業参加し学べる状態 が準備される場合に限られる。公 平さは,全員に学習活動へのアク セシビリティを確保し,個人の差 異や来歴は時に授業参加に対して 障壁となる場合がある。前提とし て,公平さの担保があり,次に平 等を提供すべきであろう。 合理的配慮とは  2016年に施行された「障害を 理由とする差別の解消を推進する 法律」は,2006年に国連総会で 採択された「障害者の権利に関す る条約」の定義(表1)を背景に 成立し,障害のある人に対する差 別を禁止し,行政機関や事業者は 合理的配慮を可能な限り提供する よう求めた。  例えば,障害から鉛筆による書 字が困難な生徒に対して,授業や 入試で代替手段としてタブレット の支援機器を認めないことは,同 法の差別禁止および合理的配慮の 否定に抵触する可能性がある。さ らに,本人や保護者が申請する代 替手段の利用について,学校側は 検討する義務が発生する。  一方で,合理的配慮は理に適っ た(reasonable)変更・調整であ り,「配慮を受ける本人」にとっ て合理的であると同時に,「配慮 する側」にとっても非過重負担の 要素を含んでおり,双方の事情を 考慮すべきとしている。本人や保 護者からの申請を受け,要望や意 見を丁寧に聴取し,どのような配 慮が必要かを合意したうえで提供 する。基本的な合理的配慮には, 「物理的環境への配慮」「意思疎通 の配慮」「ルール・慣行の柔軟な 変更」などがある。 障害のある人とは  「障害者基本法(2011)」にある

小特集

概説 共生に向けた合理的配慮とは

東京学芸大学教育実践研究支援センター 教授

橋本創一

(はしもと そういち) Profile─橋本創一 1989年,筑波大学大学院教育学研究科修士課程修了。博士(教育学)。専門は障害 児心理学,教育臨床学,臨床心理学。著書は『発達障害や人間関係が苦手な人のた めのソーシャルスキル・トレーニング』(共編,エンパワメント研究所)など。 表 1 「障害者の権利に関する条約」の定義 障害に基づく差別 (Discrimination on the basis of disability) 障害に基づくあらゆる区別,排除又は制限であって, 政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のあ らゆる分野において,他の者との平等を基礎として全 ての人権及び基本的自由を認識し,享有し,又は行使 することを害し,又は妨げる目的又は効果を有するも のをいう。障害に基づく差別には,あらゆる形態の差 別(合理的配慮の否定等)を含む。 合理的配慮 (Reasonable accommodation) 障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び 基本的自由を享有し,又は行使することを確保するた めの必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場 合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失 した又は過度の負担を課さないものをいう。 ユニバーサル デザイン (Universal design) 調整又は特別な設計を必要とすることなく,最大限可 能な範囲で全ての人が使用することのできる製品,環 境,計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデ ザインは,特定の障害者の集団のための補装具が必要 な場合には,これを排除するものではない。 (出典)障害者権利条約 第二条 定義

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22 合理的配慮の提供がなされる障害 のある人の定義を表2に示す。注 目すべきは,個人の心身機能の障 害にとどまらず,個人と社会の相 互作用の中で生じる(社会制度や 環境が障壁となり個人に支障をも たらす)状態について言及したこ とである。従来の障害の捉え方と して,その種類(特性)や程度 に基づく「医学モデル」を重視 し,服薬やリハビリテーションな どの提供の根拠とした。それに対 して,性同一性障害などに代表さ れる社会生活上の様々な慣習や問 題の解消が求められるものを,個 人-社会の相互作用に起因する障 害と考えて,実際の社会的障壁か らその障害の状態を判断する「社 会モデル」による見解に転換し た。社会的障壁の除去を怠ること が禁止され,合理的配慮の提供を 政府や地方公共団体(学校等含 む)などに義務づけられ,一般事 業者は努力義務とした。また,障 害の診断や障害者手帳の有無によ らず,合理的配慮は提供される。 つまり,学校では,診断の有無に よらず特別な支援が必要な子ど も(特別支援教育の対象)は合理 的配慮を受ける。内閣府のサイト (http://www8.cao.go.jp/shougai/ suishin/jirei/)に,合理的配慮等 具体例データ集が紹介されてい る。 インクルーシブ教育  障害者権利条約の第二十四条に 「インクルーシブ教育システム」 がある。それは,人間の多様性の 尊重等の強化,障害者が精神的及 び身体的な能力等を可能な最大限 度まで発達させ,自由な社会に効 果的に参加することを可能とする との目的の下,障害のある者と障 害のない者が共に学ぶ仕組みであ る。障害のある者が教育制度一般 から排除されないこと,自己の生 活する地域において初等中等教育 の機会が与えられること,個人に 必要な合理的配慮が提供されるこ とを主眼に置く。  同じ障害に一律に同じ配慮をす ることはむしろ不適切で,障害の ある個人が具体的にどんな困難を 抱えているかに注目し,必要な配 慮を考えなければならない。他 方,個別支援を実施すれば合理的 配慮であると勘違いしている者が 少なくない。  合理的配慮の実践例を挙げよ う。小学校2年生のAさんは自閉 症スペクトラム障害があり,「想 像力が弱い」「触覚過敏がある」 「手先が不器用」「多動性・衝動性 が強い」という支援ニーズや特性 がある。図画工作の粘土による制 作の授業では,活動に参加できず 教室の外に出て行ってしまう。こ の場合,「想像力が弱いために制 作対象をイメージできない」「手 先が不器用なためにうまくつくれ ない」「感覚過敏から粘土に触れ ない」が原因と考えられる。この 場面における合理的配慮の手立て や工夫は,①教材や道具(手袋, 触らずに遂行できる道具,代替教 材),②説明(理解しやすく不安 を取り除く),③制作活動(作る 物をイメージしやすく),④活動 グループ(楽しい雰囲気つくり, 見本やサポート体制),⑤教室環 境(室内にいられる),などだろ う。  Aさんや保護者の話に耳を傾 け,意見を聴取し,取り入れら れそうなことを探す。①〜⑤の す べ て を 実 践 す る わ け で は な く,Aさんに合った工夫を見出す ことと,教師が授業ですぐにで きることを探すことが重要であ る。国立特別支援教育総合研究所 の サ イ ト(http://inclusive.nise. go.jp/?page_id=13) に「 合 理 的 配慮」実践事例データベースが紹 介されている。 心理学が貢献できること  心理学領域から多角的・包括的 な支援技法やツールなどが提供さ れている。当事者への傾聴,相談 支援,生態学的アセスメント,支 援計画の立案,支援機器・技術の 導入,環境調整,コーディネー ション,などがある。特に,社会 適応と不適応,環境から引き起 こされる二次的な障害を迅速に ピックアップし,合理的配慮を 見出すことが必要である。例え ば,ASIST学校適応スキルプロ フィール(橋本・他,2014)にあ る個人活動と社会参加の視点か ら,学校適応スキルの獲得,障害 と学校生活の環境における問題行 動(支援ニーズ)の両面を把握 し,学校適応をプロフィール化し て支援計画を立案する取り組みな どがある。 文 献 橋本創一・他(2014)『ASIST 学校 適応スキルプロフィール:適応ス キル・支援ニーズのアセスメン トと支援目標の立案 特別支援教 育・教育相談・障害者支援のため に』福村出版 表 2 「障害者基本法」の定義 障害者とは 身体障害,知的障害, 精神障害(発達障害を含む。)その 他の心身の機能の障害(以下「障 害」と総称する。)がある者であっ て,障害及び社会的障壁により継 続的に日常生活又は社会生活に相 当な制限を受ける状態にある者を いう。 社会的障壁とは 障害がある者に とって日常生活又は社会生活を営 む上で障壁となるような社会にお ける事物,制度,慣行,観念その 他一切のものをいう。 (出典)障害者基本法 第二条 定義

参照

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